日付:2023年1月14日 

 第40回公演「水辺にて~断酒のできない断酒会」への推薦文・他

 

中央

☆令和4年11月、上野ストアハウス、第40回公演「水辺にて」。芝居はこの電柱の下で行われる。  

 
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菅間さんへ
 
鬱陶しい日々が続いております。
コロナ禍にウクライナ。そして物価高。さらに追い打ちをかけて旧統一教会。
新聞を読むのも嫌になります。
テレビのニュース報道は最も体に良くないと誰かが言っていたので、できるだけ見ないように努めてはいるのですが、やはり自然と情報は入ってきます。これがまたよくないのです。
情報は入ってくるのに心が動かない。
日々、自分が鈍感になっていくのが、手に取るようにわかります。
いかんいかん、こんなことでは病気になってしまうと、カラ元気を出して、映画を見たり劇場に足を運んだりするのですが、これもまた悪循環。
劇場の客席に座りながら考えることは、こんな状況で自分は何をしているのだろう。演劇は何かの役に立っているのだろうか。
客席を間引いたため、妙にゆったりとした劇場空間の中で考えることは、そんなことばかりです。
正直に言います。
私は、ちょっとした鬱状態でした。
 
左寄せの画像 そんな時に、菅間馬鈴薯堂の「光合成クラブ」に出会いました。
結論から言うと、私のちょっとした鬱状態は、「光合成クラブ」との出会いによって改善されました。
亀のように身をこわばらせて、防御姿勢に徹していた私の上腕二頭筋と大腿四頭筋がかすかに震え始めたような気がしました。無性に芝居の話がしたくなりました。誰彼構わず捕まえて、芝居の話がしたくなりました。
でも言葉になりません。
言葉にすれば噓になります。
良かったとも言えません。良かったなどと言ったらさらに嘘になります。
演劇は、良かったとか悪かったということのためにあるのではないのです。
演劇は、見えないものを映し出す装置です。
また、演劇は見えないものに立ち向かう勇気です。
鬱状態にあったと思われる私の心が少しでも動いたという事実が、あらためて私にそのことを教えてくれました。
コロナ禍の中で、演劇を続けることは大変なことです。
まして、その状況下の中で生きている人々を、演劇という虚構の世界で描くということはさらに難しいことです。
また言葉にしようとしています。悪あがき、愚の骨頂です。
陽炎、稲妻、水の月。
「水辺にて」楽しみにしております。
 
★ ストアハウス代表 木村真悟
 
 
★上野ストアハウスの木村真悟さんにお願いして、芝居の推薦文を書いていただきました。(菅間)
 
 
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     コロナ禍のなかで            菅間 勇
 
 
 何度となく繰り返す波のようにやってくるコロナ禍のきつい状況のなか、ご来場くださいまして、ほんとうにありがとうございます。
 
 今回の芝居は前回の「さがしものはなんですか」の再演に近いものになるだろうと予想していましたが、そのなかで第一に考えたことは、もう少し小さい芝居を書きたいと思っていたことでした。そういう雑な言い方しかできませんが、大きな芝居を書いたらきっとウソを書いてしまいそうで怖かったのです。しかし実際に小さい芝居を書き、稽古をしてきた体験からいうと小さい芝居を作ることの難しさが身に滲みるように判ってきました。
 小さい芝居のどこが難しかったかというと、稽古を重ねれば重ねるほどいままでじぶんが依拠していたもの、頼りにしてきたもの、いわば依り代、あるいは足下の地べたがじぶんのなかからみんな無くなってしまう恐怖感を幾度も味わいました。子供の頃、ウソをついた体験みたいに一度ウソをつくと、そのウソを守り通すのにまたウソを重ねる、そんな深い落とし穴に落ちていく感じに似ています。それは、芝居をどこへもって行こうとしているのかまったくじぶんでも判らなくなってしまった、そんな稽古の毎日でした。
 
左寄せの画像  でも、稽古場で楽しい体験もたくさんありました。なんて哀しいほど心細い声を出す俳優たちなんだろう、そんな声たちに稽古場でたくさん出会えたからです。これは光明でした。そうか、その声たちが発生する場所へじぶんでたどり着くことだ。わたしの目指す途を、俳優の声から教えてもらいました。怒号あり、泣き声あり、自己処罰あり、笑い声あり、哀しいほどに頼りない声あり、今回はそれらの声たちに励まされ演出として必死に追いつこうとしました。
 秋の夕暮れ時に水辺を訪れてくる人びとを描いた芝居で、上演時間は約1時間20分です。
 どうぞ、ごゆっくりご観劇くださいませ!
 
 本台本を書くにあたって、次の詩集を引用させていただきました。
 ○詩人・故辻征夫著「落日 対話編」、「俳諧辻詩集」。
 ○詩人・故岡田幸文著「そして君とあるいていく」より「歌降街」。
 ○詩人・山本かずこ著「恰も魂あるものの如く」より「わたしの罪について」。
 その他、たくさんの小説、絵本等を参考にさせていただきました。
 
 
 ●お客様へのDMでお送りしました文章です。
 ●馬鈴薯堂に掲載されている猫のイラストは、
  すべて悪猫様に書いていただきました。御礼申し上げます。(菅間)
 
 
 
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