日付:2018年6月7日 

 大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」  ~フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ映画

 
戦場のメリークリスマス 『戦場のメリークリスマス』、1983年。
監督:大島渚
原作:ローレンス・バン・デル・ポスト
出演:デヴィッド・ボウイ、坂本龍一
ビートたけし、トム・コンティ
 
 
☆ 吉本隆明
『 戦場のメリークリスマス 』
 
 
 大島渚が映画「戦場のメリークリスマス」に役者としてビートたけしや坂本龍一を誘った。ビートたけしも坂本龍一もたぶん大島渚の誘いに応ずるだろう。応ずればふたりともじぶんの「芸」のイメージを萎縮させることになる。大島渚のほうは、ビートたけしや坂本龍一の「芸」の存在感が、かれの理念を超えている部分だけ、イメージを豊かにされるにちがいない。はじめからわかりきっている。謎がのこるとすれば、大島渚がビートたけしや坂本龍一から何をどれだけ摂取できるかだけだった。
 
 この映画をみたかぎり大島渚は、ビートたけしや坂本龍一や(デビッド・ボウイ)からなにも学んでいないとおもえた。かれらを巧く使ってただひたすら肩にカこぶを入れ、イメージを萎縮凝固させただけだ。何かが根本的にちがっている。もし他人がじぶんと協働して、その人の「芸」のイメージが萎縮してしまうと判断されたら、その人をじぶんの動機から離れるようにするだろう。思想とか理念とかは、他者をひき込むためにではなく、他者を他者として豊富にひき離すために存在しているのだ。このところで大島渚の存在は無限に遠ざかってゆく。
 五月二十二日のテレビ朝目系「戦場のメリークリスマス・スペシャル」でカンヌ映画祭の大島渚が記者会見している場面が放映された。
 
戦場のメリークリスマス   《外人記者》  どうしてセンチメンタルでメロドラマチックな方法をとったのか。どうして日本人のでなく、西欧人の視点を採用したのか。
  《大島渚》  じぶんはセンチメンタルでメロドラマチックでない監督だとおもわれている。戦争中の日本の軍人はあの通りだった。日本の軍隊をこれだけ確かに描いた作品はないはずだ。
 
 この外人記者の眼は正確だ。この映画は態のいいフジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ映画になっている。戦争体験をふまえた眼で内側からみたら、恥ずかしくてみていられない。そんな外人向けのひどく通俗的な図表が、肝心のところで埋め込まれている。
 朝鮮人出身の軍属カネモトが捕虜のオランダ兵に同性愛行為を仕かけて見つかり、ビートたけし扮するハラ軍曹にいたぶられ、カネモトが反射的に短剣を腹につき立てる場面に、坂本龍一扮する隊長ヨノイが、ハチマキ剣道着の姿で木刀をさげてやってきて、軍曹にこの場の成り行きを弁明させる場面がある。葬式とお祭りを並べたような不協和なここの映像は、わたしたちの感覚では絶対に作らないものだ。軍属カネモトは隊長ヨノイから切腹を命じられ、俘虜将兵立ち会いのうえで敷物を敷き、三方のうえにのせた短刀をまえに、作法どおりのハラキリをさせられ、ビートたけしの扮するハラ軍曹が介錯し、カネモトの首が切り落とされる。デビッド・ボウイ扮する英軍将校の独房に忍び込んで見っかったヤジマも刃をつき立ててハラキリする。戦争中の日本軍隊で、こんなことは百万遍に一回もありえない。
 感情のひとかけらもない「理念の操り人形」みたいな特殊な日本軍将校や下士官や朝鮮人軍属の白々しい図式劇を、内ふところで観せられた観客は、どんな表情もっくりようがない。娯楽的な解放感からも、芸術的な感銘からもはるかに遠い。日本軍の戦争は悪だが、西洋植民地軍の戦争は善で、「杜会主義」国のやる戦争は大善だといった。すでに現在では死滅した古くさい理念でこねあげられた「人形」たちの、ただ力みかえった芝居をみせられて、徒労感がのこるだけだ。
 
 大島渚が主題主義の迷妄から離れるのはいっの日だろうか。すべての戦争権カに根こそぎ反対だという以外の、党派的な反戦理念など、現在では三文の値うちもないのだ。そんな場所にすすみでて、ほんとの反戦のモチーフを、柔らかく膨らんだたおやかなタツチで描く目はくるのだろうか。
 この映画では、ビートたけしと坂本龍一とデビッド・ボゥイの感覚的な存在感と、背景を流れるテクノポップスとオリエントや南アジアの音が融和した特異な音楽だけが、わずかに大島映画の理念の凝固を溶解させている。
 
      (共同通信配信、昭和58年6月。潮出版社、吉本隆明著「夏を越した映画」所収)
 
★大島渚(1932~)映画監督。昭和29年松竹大船撮影所に助監督として入杜。34年「愛と希望の街」で監督デビューした。松竹ヌーヴェル・ヴァーグと呼ばれたが、昭和36年松竹を退杜して、独立プロ創造杜を設立した。
▲写真:ビートたけし
 
 
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